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高齢になると筋力が衰え、短い距離を移動するのも一苦労。そのうえとても疲れやすい。老化現象だと高齢者の多くが半ばあきらめていた症状を、日本老年医学会が「フレイル」と名称を統一し、予防の必要性を指摘する提言を5月にまとめた。専門家は適切な運動と食事を心がければ「要介護状態に陥るのを防げる可能性がある」と対策を呼びかけている。
高血圧や膝関節症などの治療のため通院している高齢女性は、最近だるさや疲れやすさを自覚するようになった。体重が減り、歩くのも遅くなったため青信号のうちに横断歩道を渡りきれないこともある。寝付きが悪くなり、睡眠薬を処方してもらっている。専門家によると、こうした例がフレイルの典型だという。
フレイルとは英語で虚弱や老衰などの意味を指す「Frailty」をもとにした概念で、日本老年医学会が考案した。まだ医療現場では浸透しておらず、同医学会の声明では、高齢者の医療介護に携わる専門職に対して「食事や運動によるフレイルの1次、2次予防の重要性を認識すべきだ」と訴えた。統一名称を用いることで、予防の大切さを分かりやすく訴え、認知度を高めようという意図だ。
フレイルは高齢者が介護が必要になる手前の段階。歩く速度が落ちたり、体重ががくんと減ったりして日常生活を送るのに必要な体力が衰えてしまう。何の対策もとらずにいると、75歳以上の後期高齢者の多くがこの段階を経て、要介護状態に徐々に近づく。
フレイルに似た概念では、年齢とともに筋力が落ちる「サルコペニア」や、運動機能が低下した状態になる「ロコモティブシンドローム」(運動器症候群、ロコモ)も提唱されている。ロコモは、内臓に脂肪が蓄積して生活習慣病の危険が高まるメタボリックシンドローム(メタボ)に続き、世間でも徐々に知られるようになってきた。
これに対し「フレイルは高齢者に対象を絞り、筋肉以外にも様々な体調不良が表れる」と説明する。うつ症状や認知症など精神的な問題につながる恐れもあるという。
介護保険で要支援と認定された人と合わせれば国内で約450万人がフレイルの症状にあると推定されるという。これらを要介護予備軍とすると、国の医療費と介護給付費の増加に直結する。「フレイルの予防や、フレイルの状態になるのをできるだけ遅らせることが重要になる」
国内ではまだフレイルの正式な評価法はなく、米国老年医学会の基準では(1)体重減少(2)歩行速度の低下(3)握力の低下(4)疲れやすい(5)身体の活動の低下――これらの5項目のうち、3つが当てはまるとフレイルとなる。
この評価法は身体的な変化をみているが、「記憶力の低下や社会的な環境などにも着目することが必要だ」と訴える。高齢者では、配偶者が先に亡くなった後の独居や貧困などによる生活環境の変化が、心身ともに影響を及ぼす恐れがあるからだ。こうした考えをもとに日本の評価法を策定する方針だ。
どうすればフレイルの予防につながるのか。専門家は適度な運動と食生活の組み合わせが欠かせないと指摘する。
東京都健康長寿医療センター研究所の青柳幸利運動科学研究室長は「高齢者では、ウオーキングなど無理のない範囲で運動するのが効果的だ」と呼びかける。青柳室長は2000年から群馬県中之条町の協力を得て、65歳以上の高齢者を対象に健康づくりプロジェクトに取り組んできた。
延べ約1000人が腰に身体活動計を一日中つけて日常のウオーキングと健康の関係を調査。生活習慣病やうつ病など病気ごとに予防に効果的と考えられる歩数を特定した。要支援・要介護、認知症などの予防には1日5000歩を歩き、そのうち7分30秒は早歩きすると効果があるという。「フレイル予防もこの数字を目安に考えてほしい」と話す。
食生活への配慮も重要。糖尿病などの持病がある人は悪化しないよう気をつけつつ、「肉や魚、乳製品、大豆などの良質なたんぱく質を含む食品を75歳以上になっても積極的にとるよう心がけてほしい」と荒井教授は訴える。特に「体重が減った人は高たんぱく食品を中心にしっかり栄養をとってほしい」。ビタミンやミネラルの摂取も効果的だ。
最近は高齢者用の運動プログラムを組むジムも増えている。自治体の中には商店街の活性化とウオーキングを結びつけ、高齢者が外出しやすい環境を整える動きもある。こうした仕組みを有効活用するのもよいだろう。