https://www.asahi.com/articles/ASPBJ4WBCPB5IIPE002.html
北海道の太平洋沿岸の広い範囲で9月中旬以降、旬の秋サケやウニなどが大量死している。被害額は推計約46億円。被害海域で発生している赤潮が原因とみられるが、特定に至っていない。赤潮の原因プランクトンは比較的低い水温でも増殖する種類とわかり、秋が深まりつつあっても終息は見通せない。漁業者は「いつまで続くのか」と嘆く。
10月5日午前7時、北海道東部の豊頃町・大津漁港に、サケ定置網漁船が続々と戻ってきた。船倉からサケが網で次々に選別台へ。普段なら漁業者たちが手際よく雌雄や形別に分けていくが、今は一匹一匹エラの内部を見て死んでいるかどうかを判別する。ある漁師は「赤潮で死ぬとエラが白っぽくなる。今までこんなことはなかった」。この日は水揚げした約3500匹のうち約2割が死んでいた。これらの魚は品質上の考慮から市場に出さず、廃棄する。
漁は9月1日に始まったが、同22日ごろから網の中で死んでいる魚が出始めた。10月2日ごろまではほぼ半数が死んでいた。同漁港と東隣の浦幌町の厚内漁港分を合わせると10月12日現在で被害は8674匹にのぼる。大津漁協の長浜竜一・専務理事は「一時期よりだいぶ少なくなったが、まだ影響が残っている。決して一息ついた感じではない。自然相手だけにどうすることもできない」。同漁協にとって秋サケ漁は年間取扱高の7~8割を占め、中村純也組合長は「組合員の生活がかかっている」と話す。
北海道によると、大量死は9月中旬以降、東部の根室地方から中部の日高地方にかけての海域で発生している。道が10月8日時点での被害を各地の漁協から聞き取ったところ、サケ約1万7800匹(約5500万円)、ウニ約1500トン(約45億5500万円)だった。ほかにもサクラマス、ツブ貝、昆布、養殖魚などに被害が出ている。
高値で取引されるウニの被害額は甚大だ。10月5日からウニ漁が始まった東部の厚岸町の厚岸漁港では、例年1日当たり4、5トンの殻付きウニが水揚げされるが、今年は連日800キロ前後が続く。自らも漁に出ている厚岸漁協ウニ部会長の丹後谷耕一さん(64)は「少ないよ。もう災害だ」。
稚ウニを放流して出荷できる大きさになるまで4年かかる。9月下旬と10月初めに潜水調査をしたところ、漁場の海底はトゲが抜けて白く変色した死んだウニで埋め尽くされていた。4年ものの8割ほどが死んだという。放流から間もないウニがどれだけ生き残っているかはわからない。「その年の売り上げで稚ウニを買う。被害が今年だけならともかく、もし続けば漁はもう立ち行かなくなる」。丹後谷さんの表情が陰る。
北海道立総合研究機構水産研究本部(道総研)などによると、被害海域では同時期に大規模な赤潮が確認された。これまで道内では南部で被害があったが、東部でこれほど広範囲に被害が出たことはないという。
赤潮で魚が死ぬのはエラにくっついたり、水中の酸素が一気に減ったりして呼吸ができなくなるからだ。定置網の場合、魚が最終的に外に出られない網の中に誘導される仕組みのため、赤潮が来ると逃げられない。大量死の原因は特定できていないが、道総研は「赤潮の可能性が高いといわざるを得ない」とする。
https://news.yahoo.co.jp/articles/7df9e0e1a354594f06367e16ca50248e38cd42b6
ウニなどの大量死で価格が上昇する中、最需要期の年末を控えた飲食店などで、食材調達などへの懸念が広がっている。緊急事態宣言の解除で客足が回復しつつある中、飲食店は赤字覚悟で価格を据え置き、百貨店はおせちの産地変更も視野に入れる。これから漁が最盛期を迎える産地で赤潮が確認されることから、市場関係者は「先行きは非常に厳しい」との見方を示す。
JR札幌駅直結の複合商業施設「札幌エスタ」の鮮魚店「魚政」では5日、赤潮被害がない礼文産の塩水ウニを1パックだけ販売した。例年この時期には道東産などが1日30パックほど並ぶが、同店の林啓太専務は「市場の入荷が少なく品質も良くなかったので、今日は仕入れられなかった」。品薄感から、価格は普段より2千~3千円も高い5980円だが、ほぼ利益はないという。
「外国産に切り替えるかも」
「名物のウニ丼を出せば出すだけ赤字だ」。札幌・ススキノの海鮮料理店「おしどり」の店主小林裕二さん(47)は原価8千円のウニ丼を5500円で提供している。釧路管内浜中町産などを使っているが、赤潮被害の拡大につれ仕入れ値が2倍以上に。値上げや道外産の使用も頭をよぎるが、移動自粛要請の解除で道外常連客からの予約も入り始めており「期待を裏切れない」と、何とか踏みとどまっている。
予約が始まったおせちのメニューは半年前には決まり、急に変えられない。そのため、札幌市内のホテルの総料理長は「道内産ウニの価格が何倍になっても仕入れる」と強調。ただ、今以上に価格が高騰する可能性もあり、札幌市内の百貨店関係者は「外国産に切り替えるかも」と漏らす。
赤潮発生地以外からの仕入れもあるため、札幌の水産卸大手のウニ卸売価格は現在はまだ、例年並みの1キロ6万円で推移している。だが10~12月の主産地は大量死の原因と疑われる赤潮が確認された根室と釧路で、今後は値上がりが避けられない。道産不足を補う輸入物もロシア沿海地方産が不漁。11月から出回る北方四島産の動向によっては相当な品不足が起きるとみられ、「年末は高いどころか、食べられなくなるかもしれない」(水産卸幹部)との予想もある。