https://diamond.jp/articles/-/217121?page=3
腎機能は40歳をピークに低下正常の60%未満に落ち込んだら要注意
慢性腎臓病とは、尿の中にタンパクが出たり、腎臓の機能が正常の60%未満に落ちた状態が持続していることをいいます。
腎臓は「下水場」と極めて近い機能を持つ臓器で、血液中の老廃物を浄化して、体を常にきれいな状態に保つ働きがあります。また、体のミネラルバランス、水分のバランスも調節しています。
その機能の目安になるのが「糸球体ろ過量(GFR)」です。糸球体とは毛細血管の塊で腎臓1つに100万個、2つ合わせて200万個あります。正常ならそれらが1分間あたり100mlの血漿(血液の水成分)を連続的にろ過して浄化しますが、これが60ml未満に低下していれば慢性腎臓病です。
1分間あたり100mlを浄化する糸球体ろ過量は「GFR(ml/分/1.73平方メートル、以下単位略)」と呼ばれ、この値は40代前半をピークに少しずつ落ちてきます。これは足腰が弱るのと同じで、加齢とともに低下します。
低下の速度は1年間で1.0を少し下回る程度です。しかし、40歳から1ずつ下がれば、この場合、100歳時点のGFRは40ということになります。慢性腎臓病の基準に入って不安に思われるかもしれませんが、心配はありません。年間1未満の低下であれば、生理的な老化の範疇です。ただ、それ以上のスピードでGFRが下がっているなら、末期腎不全に進行していく恐れがあります。
健康診断の結果を見ると、老廃物の1つである血清クレアチニンの値と年齢、性別から計算した「推計糸球体ろ過量(eGFR)」という項目があると思います。ぜひ、ご自身の現在の腎臓の状態を知るためにチェックしてみてください。
もう1つ、慢性腎臓病の疑いがあるかどうかを知るために健康診断で重視すべきなのが、尿検査での尿タンパクと尿潜血です。尿タンパクがマイナスやプラスマイナスなら問題ありませんが、プラス以上なら問題です。タンパクが尿に出るのは、腎臓で血液をろ過するときに、血液中のタンパクが漏れてしまっているからで、糸球体の一部が破損している可能性があります。
尿に血液が混じっていたら、結石や膀胱炎、腎炎などの恐れがあるので、再検査と専門医の診断を受けましょう。
末期になるまでほぼ自覚症状なし
70代で人工透析を始める人が増加中
――慢性腎臓病になると、どのような症状が現れますか?
一般的には、腎機能が正常の40%程度(GFR値40)まで下がっても自覚症状は現れません。30%まで低下すると、血液検査でミネラルのバランスが崩れ、カルシウム、リン、カリウムなどに異常が認められることがあります。また、血圧が上がったり、むくみが現れやすくなったりします。ただ、そういう症状が患者さんにとって極めて苦痛かというと、そうではありません。
一方で、腎機能が正常の10%を割ってしまうと、尿毒症の危険が高まります。つまり、体の中に毒性の老廃物がたまって、症状が全身に現れます。典型的な症状としては、食事を取ると気持ち悪い、食欲が落ちる、中枢神経症状として不眠になる、イライラ感が出る、考えがまとまらないなどがあり、まるで認知症のような状態です。肺と胸に毒素や水がたまり、肺水腫や心不全を呈する例もあります。毒素や老廃物が末梢神経にも影響を及ぼし、しびれ感やかゆみが現れることもあります。
繰り返しになりますが、これらの症状は、多くの例でだいたい腎機能が10%未満にならないと現れません。つまり、末期になるまで症状がないために、「(初期では)今は何も困っていないから」と病気と真剣に向き合わない患者さんが少なくありません。実際、病院に通うのをやめてしまう方や、私達が提示する生活習慣の改善を行わない方もいらっしゃいます。ここが大きな問題なのです。
今、新規で透析治療を始める患者が一番多いのは、男性では70代、女性では70代後半から80代前半と、昔よりどんどん年齢が上がっています(日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況〈2017年12月31日〉」より)。これは日本人の平均寿命が延びていることももちろんありますが、40~60代のときに腎臓をいたわる十分な対策をしておらず、どんどん腎機能が低下してしまったことも大きな要因です。
現在の40~50代の少なくない方が高血圧、糖尿病、高尿酸血症といった生活習慣病を持っています。これを是正しない方も、同じように20年後、30年後に透析に入ってしまう危険性があります。
40代のような壮年期の方で、eGFRの値が60を割っていたら危険です。これから平均寿命を迎えるまでの40年の間に、eGFRが40未満に低下しないよう歯止めをかける対策を取りましょう。
実際にGFRが落ちれば落ちるほど、余力がなくなり、腎機能の維持が厳しくなります。特に糖尿病を患っている場合は、GFRの値が40を割ると腎臓を守るための治療効果も落ちてきますから注意が必要です。
甘い清涼飲料水&喫煙は
腎臓をむしばんでいく悪習慣
――腎臓を守るために、どのような対策が有効ですか?
慢性腎臓病の代表的な原因は、乱れた食生活や運動不足などの生活習慣にあります。
とはいえ、本気で取り組んだ方は結果を出されているのも事実です。ある50代の男性は、治療薬は何も変えていないのに、しっかり減塩を始めたことで尿タンパクの量が減り、血圧も下がりました。減塩は、非常に高い確率で驚くほど腎臓を守ってくれます。
3食すべてで減塩するのが難しければ、この日はしっかり減塩しよう、この日は外食もあるから仕方ないというふうにONとOFFを切り替えてもいいでしょう。毎日厳しく行うよりも、継続できる方法を考えてください。運動も同じで、毎日ではなく、1週間のうちに何日か行うことから始めればいいのです。
そして食べ方も重要です。朝ご飯を抜く、夜ご飯を遅い時間に食べてすぐ休む、あるいは非常に早食いであるとか。こういう食生活は腎臓に負担をかけます。1日3食よくかんでゆっくり食べる、食べてすぐに寝ない。こうした健康的な食生活が重要です。
睡眠不足や、睡眠時無呼吸症候群も高血圧や交感神経系の刺激を介して、腎臓に負担を与えます。疲れを残さないために適切な睡眠時間を毎日取りましょう。
そして、喫煙は絶対にいけません。多くの疫学研究でも、喫煙は腎臓病の危険因子になっています。
もう1つ、甘い清涼飲料水を習慣的に取るべきではありません。特にフルクトース(果糖)などが入っている清涼飲料水の取り過ぎは、腎臓に負担を与えることがアメリカなどで行われた疫学調査から立証されています(※1)。
健康的な生活習慣を心がけることで腎臓を守り、天寿をまっとうするまでに人工透析へ突入することのないようにしていただきたいと思います。