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民法959条によると、相続人不存在が確定した相続財産は、国庫に帰属することが定められています。つまり、国が財産の引き受け手になるのです。
Aさんは言います。
「司法書士から【国庫帰属】の話を聞いて、安心したんです。国がもらってくれるなら、もう誰にも迷惑をかけずにすむんだな、と」
しかし、予想に反して大変な現実が待っていました。Aさんは手続きをこう振り返ります。
「僕の場合は、先に相続放棄をして、法律のプロである司法書士が相続財産管理人になりました。それでも国庫帰属手続きのハードルは、本当に高くて難しいのです」
Aさんによると、国庫帰属の窓口になる財務省の担当者は、相続財産を一通り調査して、司法書士に、とても厳しい条件を突き付けてきたそうです。
提示されたのは、50以上の項目にも及ぶ調査と改善の措置依頼。簡単にできる調査もありましたが、そのほとんどが土地家屋調査士による本格的な調査報告が求められました。
「相続財産の中には劣化が激しいという理由で、補修工事まで指示された土地もありました。司法書士は何度も抵抗したそうですが、【それなら帰属は無理】(※3)と突っぱねられ、最終的に折れていました」
※3 国に帰属できないと、名義は亡くなった人のままです。つまり存在しない人の土地として宙ぶらりんの状態が続き、近隣住民や利害関係者が迷惑を被ることになります。
Aさんのケースでは、それらの費用は、父親の財産がなかったため裁判所による「保管金」から賄われましたが、これらをすべてクリアし、国庫帰属にたどり着くために要した時間は2年。一般の相続人が簡単にできるとは到底思えません。
●国に引き取ってもらうためには、高い高い壁がある
今回新設が検討される「国庫帰属制度」には、いくつかの条件が見込まれていますが、それぞれに国からの要求がつくことが予想されます。
(1)更地であること
→建物があれば解体してね。費用は相続人負担で!
(2)抵当権が設定されていないこと
→抵当権は抹消してね。そのための弁済や登記費用は相続人負担で!
(3)境界の争いがないこと
→境界確定をしてね。土地家屋調査士の費用は相続人負担で!
(4)土壌汚染がないこと
→土壌汚染がないか証明してね。地歴調査やレポートは相続人負担で!
一読しただけで「ムリムリ!」と叫びたくなりませんか?
●法案の一番の肝は「相続登記の義務化」
Aさんは言います。
「これほどの手間と費用をかけるなら、普通に相続する方がマシだよ、と誰もが思うんじゃないでしょうか。
国庫帰属の難しさを実感した僕から言わせれば、これらの条件は【国が絶対に相続登記をさせようとしていることの裏付け】ではないでしょうか」
実は今回の法改正の一番の軸は相続登記の義務化です。
いくつもの必要書類をそろえ、登録免許税を払って、法務局に申請して…。こうした相続登記の煩わしさから、何代にもわたって放置され、所有者不明となった土地が九州の面積と同等まで膨れ上がっていると言われます。
所有権がわからない土地を自由にするわけにもいかず、公共事業等に大きな影響を及ぼしてきました。
そこで法案では、相続時の登記を義務化し、3年以内に登記をしていなかった場合、10万円の過料(行政罰)もかす案を検討しています。
「国が引き取らなくて済むように、つまり国民が自発的に相続登記をするように、わざと困難な条件を出していると感じました」
「負動産」という言葉を知っていますか。両親から相続した地方の土地など、所有しているだけでマイナスとなる不動産のことです。寄付や譲渡しようとしても、なかなか受け取ってもらえません。
そうした使いみちのない土地を、国に引き渡せる制度(国庫帰属)の導入が現在検討されています。
今国会に提出される所有者が分からない土地対策の改正法案(民法と不動産登記法など)のことで、可決すれば2023年度にも始まる見通しです。
ただし、不動産登記を請け負う司法書士業界からは、制度ができても、「土地を捨てる」のは難しいとの声もあります。
現行法でも、相続放棄などで法定相続人がいなくなった不動産は国庫帰属となる(民法239条2項)のですが、国が条件をつけて、なかなか受け取ろうとしない実情があるからです。
改正法案では、この民法上の制度とは別に「相続登記の義務化」に伴う別ルートでの国庫帰属が検討されているのですが、どうやらハードルが低くなるわけではないようです。
実際に相続放棄をへて、現行法による国庫帰属手続きを経験した男性は、「制度ができても、相続した方が安上がりということで、利用されないのでは」と語ります。体験談を取材しました。