https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20170904-OYTET50016/
高齢者は、超高齢社会のいちばん先をいく人たちです。共に生きやすい社会をつくることは、次の世代の未来をつくることになると思いませんか?
こんな場面をみたことはありませんか?
高齢女性「そのコロッケを二つください。」
お 惣菜 屋「あいよっ、二つで173円!」
高齢女性「あっ、はい…」
……女性は、お財布を開けて、ちょっとためらっているように見えました。
お惣菜屋「次の人が待ってるから、急ぎお願いしますよー」
高齢女性「あ、じゃ、これで…」
女性は、あわてた様子で、1万円札を出しました。でも、よく見ると、手に持っているお財布は小銭でぱんぱんに膨らんでいます。
お店の人は、その太っちょな財布をちらっと見ると、「ちぇっ…」と舌打ち。お札を受け取ると、不機嫌そうに「おつりですよね」と言って、千円札を数え始めました。
「そんなに小銭がたくさんあるのに、どうして1万円も出すのよ? 面倒くせぇなあ、ったく、この忙しい時に!」という彼の心の声が、いらだった表情からうかがえました。
高齢者のお財布は、小銭でいっぱいのことが多い……。この状況を理解するためには、いくつかの可能性を検討する必要がありそうです。
指先の動きが鈍くなって……
高齢になると、指先の動きが鈍くなり、小さなものをつかみにくくなります。
小さな開け口のお財布の中の小銭を手際よく出すことは、高齢者にとっては難しい作業になるのです。
焦ると、細かい作業は一層難しくなります。
もし、あわてて小銭を出そうとして、中身をばらまいてしまったら? それはもう、大変でしょう。と思えば、どれほど手元に小銭があっても、ついついお札を出してしまう……という高齢者の気持ちを想像できるのではありませんか?
お財布の中身を、つり銭受けにザザッと出して、「ここから取ってちょうだい!」とお店の人に言っている高齢者をみかけたことがありました。時と場所にもよりますが、これは悪くない方法ですね。
計算も、邪魔をされると…
お財布が小銭だらけになるもう一つの理由は、計算力の低下です。
「173円」と言われても、どの小銭をいくつずつ出せばよいのか瞬時に計算ができなくなっているため、迷ってしまうのです。
落ち着いてゆっくり考えればわかるようなことでも、せかされたり、計算の途中に声をかけられたりすると、もうだめです。そこで、1万円なら間違いないだろうと、大きな金額のお札を出してしまうのです。
1万円札なら、「これじゃ足りません」と言われて恥ずかしい思いをすることもめったにありません。
以前、勤めていたクリニックで、受診のたびに受付で小銭をお札に両替してもらっている、初期の認知症の患者さんがいました。
理由を尋ねると、行きつけないお店で失敗して恥ずかしい思いをしたくないから、ついつい大きなお札を出してしまう、と言っていました。当然、お財布はぱんぱんにふくらんでいきます。
そうしてできた小銭の山を、顔なじみのクリニックで両替し、お財布をすっきりスリムにして帰る。一人暮らしだというその方は、とても助かっている様子でした。
少しの余裕があれば、できる
ただ、こうした関係はすぐに築けるわけではないし、お金を扱うので、慎重さは求められるでしょう。
高齢者だって、ふだんは出来ることなのに、じっと手元をみつめられたりせかされたりすると、緊張してしまいます。
お金の受け渡しの時に、「どうぞ、ごゆっくり」というひと声があると、安心して計算したり、お財布から小銭を取り出したりできるのです。
クレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス化が進めば改善されるのでしょうかね?