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NHKは2023年1月10日、2023年度の予算と事業計画を発表しました。その内容がマイナス280億円の「赤字予算」だったということが話題を呼んでいます。受信料制度への批判が高まり、受信契約者の減少が続き、しかも10月から受信料値下げが決まっているなど、厳しい状況が続く見通しです。NHKは今後、存在意義を示していくことができるのか。NHKに関する問題点について解説します。
NHKに関する2つの問題
NHKに関する問題点は、結局のところ、以下の2つに集約されます。
・NHKの必要性
・NHK受信料の強制徴収制度の是非
それぞれについて解説します。
NHKはもういらない?
第一の論点は、NHKはそもそも必要なのかという問題です。
◆NHKが不要だとする論拠
まず、NHKが不要だとする考え方は、どのような論拠に基づいているでしょうか。
かつては、情報伝達手段が限られているうえ、電波は有限であるため、民放と異なり営利を目的とせず、国民に必要な情報を伝える公共放送の存在は貴重だったといえます。
しかし、現在は、テレビという媒体だけみても、地上波、CS問わず民間の放送局が多数あり、多チャンネル化が進んでいます。しかも、IT化が著しく進んでおり、テレビがなくてもあらゆる情報がすぐに伝達され、簡単に入手することができます。
これらのことから、公共放送の役割は低下し、NHKは役割を終えたと考えるのです。
この立場は、多チャンネル化・IT化を手放しで肯定的にとらえるものといえます。また、NHKの独立性・公正性について、重視しないか、あるいは他のメディア等とそれほどの差がないととらえている傾向があるといえます。人間の理性や情報取捨選択の能力に大きな信頼を置く傾向があるということもできます。
◆NHKが必要だとする論拠
これに対し、NHKが必要だとする論拠はどのようなものでしょうか。
今日は多チャンネル化・IT化によってメディアの多様化が進んでいます。また、誰でも情報を受発信でき、しかも大量に、かつ瞬時に広まるので、誤った情報・偏った情報がさも事実であるかのように広まってしまう可能性があります。
だからこそ、独立性・公正性が強く、営利を目的とせずに正確な情報・必要な情報を伝える公共放送として、NHKの役割が重要だと考えるのです。
この立場は、多チャンネル化・IT化をある程度懐疑的にみるものといえます。また、NHKの独立性・公正性への信頼を前提とし、人間の理性・取捨選択能力に限界があると考える傾向があるといえます。
したがって、NHKの独立性・公正性が担保できなければ、NHK必要論の前提が崩れてしまうことになります。
NHKの受信料強制徴収制度の是非
第二の問題は、NHKの受信料強制徴収制度(放送法64条1項)が、憲法に違反しないかということです。
放送法64条1項は、NHKの放送を受信できるテレビを設置したらNHKと「受信契約」を締結し、受信料を支払わなければなければならないと定めています。
NHKは民間の放送局と異なり、CMを流していません。これは前述した「独立性・公正性」を担保するためです。特定のスポンサーや政治権力の意向に拘束されてはならないからです。
そうなると、財源をどう調達するのかという問題が発生します。そこで、法律で受信料の制度が定められているのです。
問題は、それを強制徴収する制度設計が、個人の「知る権利」(憲法21条)等を侵害し憲法に違反していないかということです。
この点については、最高裁判例があります( 最判平成29年(2017年)12月6日 )。論旨はおおむね以下の通りです。
・放送は国民の知る権利(憲法21条)を充足し、健全な民主主義の発達に寄与するものとして、国民に広く普及されるべきものである。
・放送の不偏不党、真実、自律を保障することにより、放送による表現の自由を確保する必要がある。
・そのために、「公共放送」と「民放」が互いに啓蒙しあい、欠点を補いあうことができるように、二本立ての体制がとられている。
・NHKは「公共放送」であり、国家権力や、広告主等のスポンサーの意向に左右されず、民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体として性格づけられている。
・したがって、放送法は、NHKが営利目的として業務を行うことや、スポンサー広告の放送をすることを禁じており(放送法20条4項、83条1項)、その代わりに、財源確保の手段として、受信料の制度が設けられている。
・受信料の金額については毎事業年度の国会の承認を受けなければならず、受信契約の条項についても総務大臣の認可・電波監理審議会への諮問を経なければならないなど、内容の適正性・公平性が担保されているので、そのような受信契約を強制することは目的のため必要かつ合理的である。
この判旨からは、「NHKは必要である」という立場に立っていることが明らかにみてとれます。その根拠は、NHKの強度の公共性・独立性・自律性にあります。
それらを確保するために、財政的基盤を確保する手段として、受信料の制度が必要だというのです。
また、受信料の強制徴収についても、国会の承認、総務大臣の認可等の手続きにより、内容の適正性・公平性が担保されていることを理由に、必要かつ合理的な制度だとしています。
結局は「公正性・中立性」
このように、受信料の強制徴収の制度が合憲・正当とされる根拠は、結局のところ、NHKの強度の公共性・独立性・自律性に求められます。
現に公共放送としてのNHKが存在し、強制徴収の制度がとられている以上、NHKの経営陣やそこで働く人々には、公共放送としての役割に徹する不断の努力が求められます。
また、私たち国民も、「不要論」「必要論」のいずれに立つにしても、NHKの公共性・独立性・自律性が損なわれていないか、たえず厳しい監視の目を向けていく必要があります。
NHKは4月から、テレビがあるにもかかわらず、受信料を支払わない世帯に受信料の2倍の「割増金」を請求できるようになります。総務省が、近くNHK受信料規約の改定を認可する方針を固めたためです。
また、これまで曖昧だった受信料契約を結ぶ時期も、「テレビを置いた月の翌々月の末日まで」と具体的に区切ります。これらは、現在8割程度の支払率を、引き上げる狙いがあります。