多くの酪農家は原乳を廃棄するか、生産抑制に協力して乳牛を早期に食肉へと処理した場合、1頭につき15万円の補助金を受け取るかの選択をせまられている
一部メディアではホクレンなどの指定団体と呼ばれる組織が「バターの価格を下げないようにしているのではないか」と噂され、今回の一連の騒動でもそうした闇があるのではないかと不満の声を挙げる人も出てきました。
今回はそうした組織が本当に闇なのか、牛乳・バターが安くならない本当の理由について詳しい酪農関係者にインタビューしてみました!
必要ない乳製品、大量輸入の謎 米国の圧力が怖くて仕方なく? 運用見直し求める声
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/793147
■貿易自由化交渉で設定
この枠は、農産物の自由貿易を推進する「関税貿易一般協定」(GATT=ガット)ウルグアイ・ラウンド農業交渉の1993年の合意を基に、95年度から設けられました。
ウルグアイ・ラウンドでは、日本がそれまで数量を制限していた乳製品の輸入を95年度から自由化し、国内の酪農業の保護は関税で行う(=関税化)ことになりました。ただ、日本が輸入乳製品に高い関税をかければ、貿易自由化の流れに逆行することになります。このため、現行(カレント)の輸入実績に基づき、輸入の機会(アクセス)を他国に開き続けるという国際的な約束を交わしました。
もともと日本は他国を大きく上回る乳製品の輸入量があったため、計算の結果、生乳換算で13万7千トンの輸入枠が設定されました。農林水産省によると、国が主体となって貿易する乳製品のカレント・アクセス枠を設けたのは他にカナダだけで、カナダの枠の大きさは日本の約3割となっています。
■枠の全量を輸入
そして、日本政府は1995年度から毎年、国内での生乳の過不足にかかわらず、このカレント・アクセス枠13万7千トンの全量を輸入し続けてきました。
酪農大国のニュージーランドやオーストラリアを中心に、欧州連合(EU)、米国などから、バターや脱脂粉乳、ヨーグルトや液体ミルクの原料となるホエー(乳清)といった形で輸入しています。独立行政法人・農畜産業振興機構(東京)が国の輸入業務を代行し、定期的に開かれる入札で落札した食品メーカーなどに売り渡しています。ちなみに、農水省によると2021年の国内の生乳生産量は全国が759万トン、北海道は426万トンだったので、カレント・アクセスによる輸入量は全国の生産量の約2%、北海道の約3%に相当します。
■需要減で批判高まる
これまでカレント・アクセス輸入枠に関して表だって反対する声は少なく、北海道新聞の紙面上でも、関税化が始まった1995年度以来、反対の声が取り上げられることは、ほとんどありませんでした。
ところが、コロナ禍による需要減で生乳がだぶつき、2022年度は乳製品の需給ギャップが、生乳換算で40万トンに上る見通しになりました。これを受け、北海道の農協系組織は22年度の生乳生産目標を当初より5万トン減らし、酪農家は減産を強いられています。
農水省も減産を後押ししており、今年3月から、乳牛を食肉用などとして殺処分すれば、1頭あたり15万円を酪農家に交付することに決めました。この交付金は4万頭分を用意しています。
2022年からは、ウクライナ戦争や円安を背景とした飼料価格や電気代の高騰で、酪農家の経営が悪化しています。酪農家は生乳の需要減との「ダブルパンチ」で疲弊しており、カレント・アクセス枠の全量輸入を続けていることに、疑問の声が出るようになりました。
■義務ではない
では、酪農家たちはどこに疑問を抱いているのでしょうか。カレント・アクセスは、義務ではなく、あくまで「輸入機会」を提供するために設けられた枠に過ぎません。そのため日本国内の需給に応じて輸入量をコントロールしてもいいはずなのに、農水省は毎年13万7千トンの枠全量をきっちり輸入しており、ここに批判が集中しています。ウルグアイ・ラウンド合意の際の国際的な約束には、13万7千トンの全量を輸入することが日本の「義務である」などとはどこにも記されていないと指摘する声もあります。