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Microsoftは、Internet
Explorer(以下、IE)のサポートを2022年6月16日で終了すると発表した。サポート終了後も、後継ブラウザであるMicrosoft
Edgeの「IEモード」で閲覧することは可能だが、これも2029年を目途にサポートを終了するという時限措置だ。いずれにせよ、IEは今後安心して利用できるWebブラウザではなくなる。
しかし、サポート終了まで1年を切った現在でも、組織内の業務アプリケーションや取引先との関係でIEを使い続けている法人は多い。
そもそも、なぜIEはサポートを終了するのか。そして、サポート終了までに企業にはどのような対応を求められるのかを、ここで改めてお伝えしよう。
:::::: IEはなぜ衰退したのか ::::::
MicrosoftがIEのサポートを終了する背景には、Webブラウザのシェアの低下が一因になっている。
インターネットの聡明期を知る人であれば、最初に使ったWebブラウザはNetscape
NavigatorかIEという方が多いかもしれない。1996年ごろのWebブラウザのシェアをみると、Netscape
Navigatorが8割以上と圧倒的に多かった。その後、WindowsのPCにIEが標準搭載されるようになるとシェアは逆転。2000年代初頭には、9割以上がIEになるまで拡大した。それが現在では、日本国内で4%台、世界に目を向けるとわずか0.57%しか使われていない(※)。
IEはなぜ衰退したのか。理由のひとつが、
セキュリティの脆弱性だ。インターネット聡明期に登場したIEは規格が古く、新たなウイルスや不正アクセスへの対策が万全とはいえなかった。脆弱性を修正するためにMicrosoftは、Windows
Updateなどで更新プログラムを提供していたが、これが2022年6月16日で終了する。それ以降は、何らかの問題が見つかっても更新プログラムの提供をはじめとしたサポートが受けられなくなる。
もうひとつ大きな理由が、
他のブラウザと技術を標準化する「W3C(World Wide Web Consortium)」にIEが準拠しなかったことが挙げられる。IEは独自機能を追加しながら利便性を高めていったが、W3C標準化には消極的だった。これが、Web開発者にとって頭痛のタネになっていく。たとえば、W3Cに準拠したCSSでもIEには対応していないものがあり、バグの修正など改善に手間取った経験のある方は多いのではないだろうか。この場合、IE用に記述し直すだけでなく、その記述で他のWebブラウザで
も異常なく使えるかチェックする必要がある。つまり、開発者の工数が大きく増えてしまうのだ。
また、ユーザー視点では、
独自機能が追加されるたびに動作が重くなるなど、ユーザ
ビリティに難が生じることもIEが避けられるようになった一因だろう。2005年前後からW3Cの標準規格に準拠したブラウザが続々と登場するが、IEに不満を持つユーザーは、シンプルで動きが速く更新も頻繁に実施されるGoogle
Chromeなどに流れ、徐々にシェアを下げていったと考えられる。なお、IEの後継ブラウザとなるMicrosoft
EdgeはW3C標準規格に準拠している。
※データ出典:StatCounter(数値は2021年9月期現在)
https://gs.statcounter.com/
::::::「脱IE」が進まないニッポン ::::::
IEのシェアは徐々に下がっているものの、日本では4%のシェアがあり、世界各国と比べると高い状況だ。企業や団体では、いまだにIEから抜け出せないところもある。日本ではなぜ、他のWebブラウザへの移行が進まないのか。
理由の一つとして、
官公庁の基幹システムがIE推奨またはIEしか対応していない
ものが多いことが挙げられるだろう。一例として、国税電子申告・納税システム「e-Tax」の推奨ブラウザは、2021年9月現在でもIEのままだ。Google Chromeなど他のWebブラウザでも利用できるが、Microsoft Edgeではまだ利用できない。
官公庁がIEに縛られているとSNSで話題になった出来事として、2020年9月に始まった「マイナポイント事業」がある。実は当初、マイナポイントの申し込みがIEからしか利用できなかったのだ。2020年になってもこのようなシステムをつくることに対し、SNS上では「官公庁はいまだにIEに縛られている」と揶揄される様子が見られた。
官公庁だけではなく、
銀行系システムもIEに縛られているところが多い。メガバンクでも、法人向けオンラインバンクの一部サービスでは、IEにしか対応していないところも多い。当然、取引をしている企業や法人でも、送金や電子契約などのためにIEを使わざるを得ず、「IEをアップデートする手間がもどかしい」といったユーザーの声も聞かれるようだ。
さらに、一般企業や団体が使用する業務アプリケーションや帳票類などの基幹業務ツールにも、IE用に設計されているシステムが多く残っていることも、移行が進まない一因だ。他のWebブラウザでも使えるよう変更するとなれば多額の資金が必要になるし、動作検証の手間もかかる。
IT投資に消極的な企業ほど、「IE離れ」が進まないという一
面もあるようだ。
:::::: IEサポート終了前に企業がやるべきことは? ::::::
IEの利用率が高い企業であっても、サポートが終了すればこれ以上の開発やアップグレードができなくなる。何らかの不具合やセキュリティの脆弱性が発覚しても、修正されることはない。このままIEを使い続けると、ウイルスの攻撃を受け個人情報や機密情報などが漏洩するリスクも高まるだろう。「政府や金融機関がIEを推奨しているから」と先延ばしにしてよい案件ではない。サポート終了に向けて、企業は迅速に対応していくことが求められる。
とはいえ、どのように進めるかわからない方もいらっしゃるだろう。
まず実行したいのが、
IEを使っているWebシステムやアプリケーションの洗い出し
だ。移行できないWebシステムやアプリケーションがあれば、そのなかに残っている情報資産をどのように移行するかを検討する必要がある。影響する範囲を洗い出して、Microsoft EdgeのIEモードで対応できるか、それとも別のWebブラウザで利用できるよう改修するかといった対応方針を固めることから始めよう。
ここで留意したいのが、Microsoft EdgeのIEモードに依存しすぎないこと。Webサービスやアプリケーションによっては、
IEモードで利用できない機能があるかもしれないので、これ
まで通りに活用できるかを検証する必要がある。
また、IEモードはあくまでもMicrosoft Edgeへの移行を進めるためのツールなので、「IEモードがあれば2029年までは移行しなくてもよい」というわけではない。いずれは別のWebブラウザでも利用できるよう移行を前提に進めることが大切だ。
企業によっては、セキュリティの都合でIE以外のWebブラウザを使用禁止にしているところもあるだろう。その場合は規約を変更し、すべてのクライアントPCで新たなWebブラウザをダウンロードして、必要な設定を進めなければならない。ユーザーの移行には時間がかかるため、
もしサポート終了までに間に合わない場合は、IEモードで閲
覧するよう利用者に周知することも忘れないようにした
い。
このほかにも、IEに依存している企業では移行業務に手間を取られるかもしれない。作業量が膨大になる場合は、優先順位を決めながら進めていくことも大切だ。
多くの企業では、IEサポート終了に向けた対策を進めている。もし、何の対処もしていない方がいたら、一つひとつの要件を丁寧かつスピード感をもって対策を講じてほしい。