https://www.sankeibiz.jp/macro/news/210228/mca2102280700001-n1.htm
新型コロナウイルスの感染拡大で図書館の利用が制限される中、パソコンやスマートフォンで本を読むことができる「電子図書館」のサービスを始める自治体が増えている。年中無休で場所を問わず利用できる気軽さや、外出自粛の浸透によって読書をしようという人が増えていることを背景に、利用状況は順調に推移しているという。
印刷会社や電子書籍会社で構成する電子出版制作・流通協議会(電流協)によると、電子図書館を設置する全国の自治体は1月1日時点で143で、前年同日時点の91から6割近く増えた。
今年1月5日にサービスを始めた埼玉県坂戸市は、小説や実用書など約9千点を提供しており、住民に加え、市内の会社や学校に在勤、在学する人も利用できる。
同市は、図書館に通いにくい高齢者や障害者のために電子図書館を開設することを検討していた経緯があり、新型コロナウイルス感染拡大でニーズが高まったと判断し、導入に踏み切った。市教育委員会の担当者は「対面せずに本を借りることができる電子図書館は『新しい生活様式』にマッチしている。幅広い世代に利用を促していきたい」と力を込める。
「日本一の読書のまち」を掲げる同県三郷市は、平成30年から電子図書の貸し出しを行ってきたが、感染拡大を機に利用者が急増している。昨年4月~今年1月の貸し出し数は7033件で、前年同期の3倍以上になった。需要の高まりに対応するため、今年度の電子書籍の購入点数は当初予定の400点から1400点に上積みされた。
市教委の担当者は「読書は『ステイホーム』の促進にもつながる。紙書籍に比べて電子図書の数はまだ少ないが、コンテンツの充実に取り組んでいきたい」と説明する。
埼玉県内では、2市の他にも12市町が電子図書館を設けており、うち5市町は前回の緊急事態宣言が発令された昨年4月以降に運用を始めた。
電流協の電子図書館担当の長谷川智信さんは「電子図書館は、図書館の休館中に貸し出しができるなどメリットも大きい。新たな読書習慣としての定着を目指していきたい」と話している。
自宅で本を貸し出し→自動で返却 「電子図書館」に注目
https://www.asahi.com/articles/ASP3774ZWP31OHGB01H.html
新型コロナウイルスの影響で昨年春、臨時休館を迫られた公立図書館が、電子書籍の貸し出しに力を入れている。岐阜市でも1日から電子図書館がオープンした。パソコンやスマートフォンがあれば、いつでも読みたい本が借りられる便利さで利用が広がり、貸し出し実績を増やしているところもある。
岐阜市立図書館は、新型コロナの緊急事態宣言により、昨年4月7日から5月18日まで臨時休館した。その後もコロナ禍で図書館への来館を控える利用者が増えたため、昨年9月に補正予算590万円を組み、電子図書館の「開館」準備を進めてきた。
テーマは「おうち時間に気軽に楽しめる図書」。子どもや若者にターゲットを絞った「蔵書」が4割を占め、実用書や小説、エッセー、洋書など幅広く選定した。障害者向けにあらかじめ文字が大きくなっている「大活字」も含め、832タイトルを貸し出す。さらに新年度には1千タイトルを追加する予定だ。
電子図書館の利用は市内在住、在勤、在学が対象。市立図書館のホームページに専用バナーを開設。パソコンやスマホなどからアクセスし、あらかじめ登録した利用者カードのIDとパスワードを入力し、読みたい本を選択するだけだ。貸し出し中の場合は予約もできる。
市内の全小中学生に1人1台貸与されているタブレット端末からも利用できる。パソコン操作に慣れた人なら数分で読みたい本が借りられる。同図書館情報支援係の土谷広恵係長は「外出自粛などコロナ禍において、非来館型の電子図書館は安心して利用してもらえる。子どもにも図書館がより身近な存在になってほしい」と期待を寄せる。
同図書館によると、新型コロナの感染防止のため、自習室が利用できないこともあり、前年同期比で入館者は6割、紙の本の貸出件数は8割にとどまる。
川合裕子館長は「自宅で安心して読書を楽しむことができる電子図書館をのぞいてほしい」と話す。
期限過ぎると、自動的に返却
借りた電子書籍は貸出期間を過ぎると自動的に返却される。図書館にとっては、蔵書スペースがいらず、本の汚損や紛失の心配がない。期限が来れば自動的に返却されるので督促の手間も省ける。様々な特集の本棚づくりもネット上で出来る利点がある。
一般社団法人「電子出版制作・流通協議会」によると、2007年に東京都千代田区が導入したのを皮切りに広がってきた。今年1月時点で電子書籍の貸し出しサービスをしている公立図書館は全国で146館。新型コロナの感染拡大を受け、昨年1年間で52館増加したが、紙の図書館を持つ自治体のうち1割ほどにすぎない。
図書館で貸し出せるのは著者や出版社が許可した電子書籍に限られ、実用書や児童書、コミックなどが中心で人気作家の新刊やベストセラーは少ない。購入費も紙の本の1・5倍と高価だ。
電子書籍の大手取次会社「メディアドゥ」電子図書館事業部の林剛史マネジャーは「コンテンツの量が少ないのは事実。読み上げ機能付きの本など電子書籍の特徴を生かし、教育現場での利用が普及のカギを握る」と話す。
2018年2月、県内で最初に電子書籍の一般向けの貸し出しを始めた関市立図書館は、3年間で「蔵書」を370タイトルから5572タイトルへと増やしてきた。
現在の登録者は1576人。新型コロナの緊急事態宣言が出ていた昨年5月には、月間では過去最高の716回の貸し出しがあり、新規登録者も今年度だけで350人以上増えた。
一方、「蔵書」には、貸し出しができる回数や期間に制限があり、人気の電子書籍は再購入する必要がある。塚原隆文館長は「費用面などを考えると購入する電子書籍の見極めが難しい」と話す。