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人口減少や高齢化等の社会情勢の変化に伴って表面化し、近年、重要課題の一つとされている所有者不明土地の問題。
もし、あなたのお隣の土地の所有者が、ある日突然いなくなったらどうなるのでしょう。
将来に、どのようなリスクが起こり得るのでしょうか?
土地を取得しても登記は義務付けられていません。所有権の登記をするかどうかは任意であるため、登記事項証明書を見ても、所有者が誰であるか分からないことがあります。また所有者が分かっても連絡が取れない場合もあります。このような状態にある土地を所有者不明土地といいます。
また所有者不明土地のうち、土地の上に建築物(簡易建築物を除く)がなく、かつ、業務の用その他の特別の用途に供されていない土地を特定所有者不明土地といいます。平成30年11月15日に「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」の一部が施行され、長期間、相続登記がされていない土地について登記を促す特例が設けられました。一定の手続きを経て、土地を事業用に活用することができます。
2016年度の地籍調査によると、登記簿上の所有者不明土地の割合は約20%。
面積は九州本島を上回る約410万haに上るとみられ、発生抑制のための取り組みを行わなければ、2040年には所有者不明土地は北海道の面積に迫る約720万haまで増加すると推計されています。
では、なぜ所有者不明の物件が生まれるのでしょうか。
これには次の3つが原因として考えられます。
- 子どもなどの相続人がいない場合
- 相続人が決まらなかった場合
- 相続人が登記簿の名義を変更していない場合
特に、3つ目の「相続人が登記簿の名義を変更していない」ケースがもっとも多く発生しているのが現状です。
所有者不明土地が生まれる原因として、「相続未登記」の問題があります。
相続人が決まらずに放置されるケースや、相続人が決まっているにも関わらず登記簿の名義変更がされないケースがあります。
登記変更をしない理由は、何なのでしょうか。
ひとつに「売却しにくい土地であること」が考えられます。
核家族化が進んでいる現代において、親が所有していた土地に子どもが住み続けるケースは、そう多くはありません。
売らずにそのまま土地を所有していた場合、当然「固定資産税」や「都市計画税」が発生しますし、管理の手間や費用もかかります。
どうせなら早く売ってしまいたいというのが本音ですが、立地によっては売却が難しい場合もあるでしょう。
そこで、名義を変えずに放置した結果、時間の経過と共に世代交代が進み、法定相続人が増えて登記簿情報と実態は更にかけ離れていくため、その土地を新たに利用する話が持ち上がった時には、相続人を辿って名義変更の同意を取り付けるのに、膨大な手間と時間を要することとなります。
上記のようなリスクを考えると、名義変更せずに相続した不動産を放置する人が増えていくことも、まったく理解できないわけではありません。
2019年時点で相続登記は任意であり、名義変更の手続きを行うかどうかは相続人の判断に委ねられており、所有者不明土地を抑制する手段が、現段階ではないというのが現状なのです。
政府は不動産登記の義務化を検討しています。
しかし、罰則金がない、あっても罰則金が固定資産税や修繕積立金と比較して極端に少ない場合、違反があとを絶たなくなる可能性も考えられます。
あなたがマンションに住んでいるケースを考えてみてください。所有者不明の住戸が増えると、どうなるでしょうか。
管理費や修繕積立金の滞納が発生し、管理会社が請求しようにも登記の所有者が亡くなっていてはどうしようもありません。
滞納金が増え続ければ、マンション全体の管理や長期修計画にも影響を及ぼします。
では、一戸建てならどうでしょうか。誰にも迷惑をかけないと思っていませんか?
修繕されない一戸建ては、あっという間に老朽化が進みます。屋根や外壁は腐食し、庭の草木も生い茂ります。
そんな住戸の前を往来している人は嫌悪感を抱くでしょうし、強風で住宅の一部が破損して、その欠片があなたの家に飛んでくる可能性だってあるのです。
土地の場合も同様に、所有者がわからないことによる弊害が生じます。
公共事業や再開発に向けた用地取得や徴税の妨げとなるというのが、ひとつ。
空き地の管理にも支障が生じ、雑木の繁茂による火災・放火の危険性やゴミの不法投棄による環境衛生上の問題も考えられます。
「自分には関係ない」と考えるのではなく、いつ我が身にふりかかるかわからないこの問題に対し、一人ひとりが真剣に向き合っていく必要があるでしょう。
法務省及び国土交通省が所管する「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が、2018年11月より一部施行。2019年6月に全面施行されました。
この特別措置法では、名義人の死亡後長期間にわたり相続登記がされていない土地について、法定相続人等を探索した上で登記官の職権により長期間相続登記未了の旨等を登記に付記し、法定相続人等に登記手続を直接促すなどの特例が設けられています。
2018年11月15日からは、今後、相続登記が放置される可能性のある土地に対応するために、一定の土地について相続登記の登録免許税の免税措置も開始。
2019年5月17日には、所有者に関する情報が正しく記載されていない「変則型登記」を減らすための法律が可決しています。
また、国民に対する意識調査によると、空き地の所有者の約半数が負担を感じたことがあると回答しており、国民の8割近くが土地の所有権を放棄してもよいと考えていることもわかっています。
その結果を受け、政府では土地所有権を放棄することを可能とすることについても検討が進められています。
所有者不明土地による経済的損失は約6兆円
土地が利用できないことによる機会損失や所有者の同意を取り付けるまでにかかるコスト、税の滞納などによる経済的損失は、所有者不明土地問題研究会の調査によると、2017~40年までの累計で少なくとも約6兆円にのぼると推計されています。
所有者不明土地の問題は、過疎化が進む自治体だけでなく都市部においても広がっており、一刻も早い対応が求められています。
今後の課題である所有者不明土地の発生抑制・解消に向けての取り組みが進められていますが、膨大な所有者不明土地の問題を解決する道は、まだまだ遠いと言わざるを得ないでしょう。