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不動産関係の話題で最近よく聞かれるのが「所有者不明土地」の問題。
この問題は、有効な土地利用ができないということで国レベルで大きな課題となっているだけでなく、国民一人一人の権利にも大きく関わることです。
この問題の対策として、2021年2月10日に法制審議会民法・不動産登記法部会第26回会議において民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案(案)が決定されました。政府は3月5日に改正案を閣議決定をし、国会で成立後、2023年度に施行される予定です。
背景には相続登記の問題も絡んでおり非常に根が深いものですが、本章では「所有者不明土地」とはどういうものか、問題点やリスクなどについて詳しく解説したいと思います。またこれに絡めて相続登記の義務化と期限の話題についても取り上げます。
今回の記事のポイントは、下記の通りです。
- 登記簿に正しい所有者が反映されていないと土地の利用・活用に支障が出る
- 相続で不動産取得を知った日から3年以内に手続きを登記・名義変更をしないと10万円以下の過料の対象となる
- 住所変更した場合も不動産登記が義務化され、2年以内に手続きをしなければ5万円以下の過料の対象になる
- 不動産の相続登記・名義変更が済んでいなければ専門家の助力を得てできるだけ早く相続登記を行うこと
- 「所有者不明土地法」が整備され、手続きを取ることで所有者が分からない土地を自治体等が利用しやすくなった
- 2023年頃には、相続登記が義務化される可能性が高い
記事内では、もしあなたの親が所有者不明土地を保有していたらどうすべきかについてもお話ししますので、ぜひ参考になさってください。
まず所有者不明土地の概念ですが、国土交通省によれば「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地」を所有者不明土地と定義しています。
通常、土地など不動産の所有者は「不動産登記簿」で確認することができますが、様々な理由で登記簿に正しい情報が反映されないケースが多くなっています。これによって土地の所有者がだれであるのか分からない、名前が確認できたとしても居所がつかめないという事案が多発しているのです。
登記簿に正しい情報が反映されなくなる理由はいくつかありますが、一番の理由は相続登記がされないケースが多いためと考えられています。現状では相続登記は義務ではないので、手間や登記費用の出費を嫌ったり、遺産分割協議が面倒、法定相続人間の話し合いがまとまらないなどの理由で登記されないまま放置されるケースが多くなっています。その状態で所有者が死亡し、代替わりが続いていけば相続人は鼠算式に膨れ上がり、もはや誰に所有権があるのか分からないということになってしまうのです。
また、不動産の所有者の住所変更登記も義務化されないことから、住民票上の住所を変更しても不動産登記簿の住所が反映されておらず、所有者への連絡をとろうとしても所有者の居所がわからないという問題も発生しています。このように相続や住所変更があっても登記が義務化されていないので所有者がどこにいるのか、現在生存しているのかわからないという不動産が多くは発生してしまっているのです。
この問題を国や自治体から見た場合、例えば公共用地として土地を取得したいのにその交渉相手が判明せず国土として利用できない、災害対策の工事が必要だが対象土地の権利者が不明で話を進められないということになり、実際に現実の問題として起きている状況です。
また民間同士でも、例えば、空き家となっている不動産を売却したい、街の賑わい創出のために土地を利用したいなど公共性のある事業の話が持ち上がっても、土地所有者が不明では話を進められません。国土交通省の報告によれば、日本全体で所有者不明土地は約410万ヘクタールに相当するとされており、これは九州の土地面積を上回る数値です。また、民間の取引でも、所有者のうち一人が行方不明、所在不明という状態が発生すると、その人の同意がえられないと空き家、空き地である不動産を売却したり、有効活用ができないという問題も発生します。
国や自治体のみならず民間にとっても、国土、不動産の有効利用を妨げられることになり経済や国力の維持など多方面への影響が危惧されているのです。
では国民一般から見た場合、所有者不明土地を保有することで具体的にどんなことで困るのか考えてみましょう。
不動産の売買では対象不動産の所有者を確認しなければならないので、必ず登記簿を取って所有者を確認しま
①土地の売却ができない
す。相続登記や住所変更登記が放置されていて登記簿で売主の名義が確認できなければ、購入希望者は危険を感じて取引に応じてくれないでしょう。
②利用・活用ができない
例えば相続対策でアパートを建てて運用したいといったとき、ハウスメーカーは土地の権利者を正確に知るために登記簿で確認します。所有者の名義が確認できなければ、やはり業者側が危険を感じて取引には難色を示すはずです。
このため売却だけでなく不動産活用も難しくなります。
③抵当物件として利用できない
融資を受ける場合には、一般的に建設予定地を金融機関に担保として提供します。相続対策で建築するために土地を担保に出したい場合も、金融機関は必ず登記簿で土地の名義人を確認します。正確な所有者を確認できなければ、金融機関は抵当物件として利用することを拒絶するはずです。
④正しい相続ができない
数代にわたって相続登記が放置されているケースでは、被相続人となる人が相続登記が放置されている物件の共有持ち分を仮に保有していたとしても、どれくらいの持分なのか不動産登記簿から確認できませんし、実際にはそもそも持分を保有していない可能性もあります。
遺言書を書くにしても、相続対象となる財産を正しく指定できないことから、遺言の内容の一部が無効になってしまったり、場合によっては遺言全体が無効になってしまう可能性も出てきます。
所有者不明土地が発生する大きな原因が、これまで述べてきたように相続による名義変更登記や所有者の住所変更登記がされないまま、放置されていることで不動産の所有者が誰なのかj判断できないことが大きな理由とされています。
そこで、兼ねてから相続登記を義務化することが検討されており、法案の議論もかなり進み、2021年2月10日に法制審議会民法・不動産登記法部会第26回会議において民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案(案)が決定されました。政府は3月5日に改正案を閣議決定をし、国会で成立後、2023年度に施行される予定です。
所有者の情報を正確に反映させ、連絡をとれるようにするための方策として、要綱案における不動産登記の義務化に関連するポイントは下記のとおりです。
以下、それぞれについて解説していきます。
①相続登記の義務化
相続登記の義務化に伴う改正ポイントは下記のとおりです。
・相続で不動産取得を知った日から3年以内に手続きを登記・名義変更をしないと10万円以下の過料の対象となる
・相続人が遺言で財産を譲り受けた場合も同様に3年以内にしないと名義変更も過料の対象となる
・遺産分割がまとまらず相続登記をできない場合には、相続人であることを申告をすれば相続登記をする義務は免れる。その場合には、法務局(登記官)が登記簿に申告をした者の氏名住所などを記録する(相続人申告登記(仮称))。
・相続人申告後、その後の遺産分割協議によって不動産の所有権を取得したときは、遺産分割の日から3年以内に登記しなければならない義務が発生する。
・相続人に対する遺贈や法定相続登記後の遺産分割による名義変更が簡略化され、不動産を取得した者からの申請で名義変更ができる。
・住民基本台帳ネットワークシステムで、法務局(登記官)が登記簿上の所有者が死亡していること把握した場合には、所有者が死亡していることを登記簿に記録することができる。
相続登記が義務化される
不動産の所有者について相続があったときは、相続により不動産の所有権を取得した者は、相続の開始及び所有権を取得したことを知った日から3年以内に不動産の名義変更登記をしなければなりません。これは、遺言などの遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も同様です。
遺産分割後の名義変更登記も義務化される
相続人間の遺産分割がまとまらず、速やかに相続登記ができないときは民法で定める法定相続人が法定相続分で登記を行うことにより、当初の義務を免れることができます。しかし、そのままだと法定相続割合に不動産の共有となってしまいます。そこで、法定相続分による相続登記後、遺産分割協議を行うことにより遺産分割で取得した相続人は、その名義変更登記を行う必要があります。この遺産分割による名義変更登記においても、遺産分割の日から3年以内に登記をすることが義務づけられます。
しかし、義務を免れるために上記の法定相続分での登記手続きを行うことには、手間とコストがかかります。
そこで、遺産分割がまとまらず速やかに相続登記をできない場合には、相続人であることを申告をすれば相続登記をする義務は免れる制度((相続人申告登記(仮称))が設けられました。この制度が利用された場合には、法務局(登記官)が登記簿に申告をした者の氏名住所などを記録します。
義務化に伴う登記手続きの一部簡略化される
相続人に対して相続財産の一部を遺贈する内容の遺言があった場合には、不動産の遺贈を受ける者以外に法定相続人全員(遺言執行者がいるときは遺言執行者)の協力がないと遺贈による名義変更手続きができませんでした。協力をしない相続人等がいると義務を履行できないため、改正後は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による名義変更は、不動産の遺贈を受ける者が単独で申請することができようになります。
また、法定相続分による相続登記後、遺産分割による名義変更登記も、他の相続人の協力がなければ名義変更ができなかったのが、法改正により、不動産を取得した者の単独で申請することができるようになります。
法務局が住基ネットで把握した死亡情報を登記できる
住民基本台帳ネットワークシステムで、法務局(登記官)が登記簿上の所有者が死亡していること把握した場合には、法務局(登記官)の判断で所有者が死亡していることを登記簿に記録することができます。ただし、あくまで死亡情報のみを記録するのみで、その相続登記の義務は免れることはできません。
②住所変更登記の義務化
・個人のほか、会社などの法人が住所変更した場合における住所変更登記が義務化され、2年以内に手続きをしなければ5万円以下の過料の対象になる
・法務局(登記官)が住民基本台帳ネットワークシステム又は会社などの法人情報を管理する商業・法人登記のシステムから所有者の氏名及び住所についての変更の情報を把握したときは、その住所、氏名などの変更登記ができる。ただし、所有者が個人の場合には、個人への意向確認と承諾が必要。
住所変更登記が義務化される
登記上の所有者の住所についても義務化されます。その登記簿上の住所情報が更新されておらず、現在の居所がわからないことも所在不明土地の原因とされているからです。
所有者の氏名、住所等について変更があったときは、その変更があった日から2年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければなりません。
法務局が住基ネット、商業・法人登記システムで把握した住所変更情報を登記できる
法務局(登記官)が住民基本台帳ネットワークシステム又は会社などの法人情報を管理する商業・法人登記のシステムから所有者の氏名及び住所についての変更の情報を把握したときは、法務局(登記官)の判断で、その住所、氏名などの変更登記ができるようになります。ただし、所有者が個人の場合には、個人への意向確認と本人からの申し出が必要です。
③所有者情報など連絡先の把握
・新たに不動産の所有権を取得する個人は、名義変更登記時に生年月日等の情報の提供が義務化される。生年月日は登記簿には記録されないが、法務局内部において検索用データとして保管される。
・所有者が会社など法人であるときは、商業・法人登記のシステム上の会社法人等番号が登記簿に記録される。
・海外居住者は、その国内における連絡先(第三者も含む)を申告が必要。その連絡先が登記簿に記録される。
・所有している不動産の一覧情報(所有不動産記録証明書(仮称))を本人又は相続人から法務局に対して交付を請求できる。
個人は、名義変更登記時に生年月日等の情報の提供が必要
新たに不動産の所有権を取得する個人は、名義変更登記時に生年月日等の情報の提供が義務化されます。
個人の生年月日は登記簿には記録されませんが、法務局内部において登記官は、氏名、住所、生年月日などの情報を元に住民基本台帳ネットワークシステムに定期的に照会及び検索用のキーワードとして利用される予定です。
商業・法人登記のシステム上の会社法人等番号が登記簿に記録される
所有者が会社など法人であるときは、商業・法人登記のシステム上の会社法人等番号が登記簿に記録されます。
海外居住者は、その国内における連絡先(第三者も含む)を申告が必要
不動産を取得する者が海外居住者の場合には、その国内における連絡先となる者の氏名又は名称等の申告及び登記が必要となります。連絡先としては第三者も指定することができますが、その第三者は日本国内に住所を要することが要件とされています。
所有不動産の一覧情報(所有不動産記録証明書(仮称))が発行される
所有している不動産の一覧情報(所有不動産記録証明書(仮称))を本人又は相続人から法務局に対して交付を請求できるようになります。
今までは不動産の所有財産の一覧を調べるには、不動産ごとの所在地にある市区町村役場で固定資産税評価証明や名寄せを取り寄せるなどの必要がありました。しかし、固定資産税が課税されている不動産については、記載されていないなど問題がありました。
そこで、法務局で自らが所有者となっている物件の明細(所有不動産記録証明書(仮称))を取り寄せることができるようになります。
ただし、この証明書は、その時点における登記簿に記録されている所有者の氏名又は名称及び住所は過去の一定時点のものであり、必ずしもその情報が更新されているものではないことなどから、あくまでこれらの情報に一致したものを一覧的に証明するものであり、正確な網羅ができるかどうかは技術的な問題があるとされています。
もし、あなたの親が保有する土地が代々相続登記が放置されているなどで正しい所有者が確認できない場合、前項のような問題が生じ困ってしまうことになるでしょう。
ですから、できるだけ速やかに、正しい所有者を登記簿に反映させる必要があります。
相続登記の放置がまだ1世代程度で、過去の相続権利者が生存しているのであれば、遺産分割協議を行って所有者を確定し、正しい登記内容に変更することは十分可能です。ただし、素人で進めるには非常に手間と時間がかかる作業ですから、司法書士などの専門家の助力を得て進めるのが無難です。
もし何世代にもわたって相続登記が放置されている場合、遡って問題を処理するのは非常に困難になります。実際に当事務所でも取り扱った相談事例では、明治時代から相続登記がされていない事例もあり、世代を追って相続人を調査した結果100名超の相続人が登場し、その合意をとるために個別の合意や裁判手続きを経て2年超の期間を経て名義変更手続きを行ったこともあります。このように、相続登記を怠ってしまった結果、専門家でも対処しきれないことがあるので、相続登記の放置は気づいた時点でできるだけ早く問題の処理に動く必要があります。
なお、売却を考えているケースで他の共有者が確認できない場合、権利者の追跡を行うことになります。専門家に依頼するなどしても共有者の存在が確認できないときは、不在者財産管理人を選任して手続きを進める道もあります。
裁判所が関与するので手間と費用が掛かりますが、この点は仕方がありません。
さて、これまで見てきたように所有者不明土地は国レベルでも、また民間レベルでも問題の種となっていることから、これに対応するため、いわゆる「所有者不明土地法」(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法)が作られ、すでに2018年6月に施行されています。
ただし、この法律の大枠の性質としては、国や自治体、あるいは民間の事業者が国土としての土地を有効利用しやすくするために作られた法律です。その土地を今現在所有している人が抱える問題を解決するという性質のものではないので、この点は理解しておく必要があります。
つまり、売却や利活用、抵当物件として土地を利用できないといった問題を解決するためではなく、国や自治体が行う様々な施策に所有者不明土地を利用できるようにしたり、民間の事業者が公共性のある事業について、所有者不明土地の所有者を探し出す手間なく利用できるようにするのが目的です。
この法律によって可能となった取り組みを以下に上げて確認します。
【2018年11月15日施行分 】
民法の特例として、所有者不明土地の管理のために特に必要がある場合に、地方公共団体の長が家庭裁判所に対して財産管理人の選任等を請求することができるようになりました。
【2018年11月15日施行分 】
土地所有者の探索を合理化する仕組みとして、固定資産税課税台帳や地籍調査票などの公的な情報を行政機関が利用できるようになり、また法務局の登記官が長期間相続登記等がされていない土地について、長期相続登記等未了土地である旨を登記簿に記録することができるようになりました。
【2019年6月1日施行分 】
反対する権利者がおらず、建築物(一定の簡易小規模なものを除く)がなく、現状で利用されていない土地を「特定所有者不明土地」と位置づけ、以下の仕組みが構築されました。
①土地収用法に基づき特定所有者不明土地を収用する場合、これまでよりも手続きが簡略化され、知事の決済で土地を取得できるようになりました。
②自治体だけでなく民間事業者も含めて、公共性の高い事業(地域福利増進事業)を行うために土地を使用したい場合、知事の裁定を受けることで最長10年の使用権を設定することができるようになりました。
公園や広場を整備する事業や、住民の共同の福祉や利便性の増進に寄与する事業を行いたい場合、土地の所有者が分からず交渉ができなくても、手続きを取ることで一定期間土地を使用することができます。ただし使用後には土地を原状回復する義務があります。
今回の記事では増え続ける「所有者不明土地」について、当該土地を保有する人に生じる問題点や対応方法、国による対応策などを見てきました。内容をまとめてみましょう。
- 登記簿に正しい所有者が反映されていないと土地の利用・活用に支障が出る
- 相続で不動産取得を知った日から3年以内に手続きを登記・名義変更をしないと10万円以下の過料の対象となる
- 住所変更した場合も不動産登記が義務化され、2年以内に手続きをしなければ5万円以下の過料の対象になる
- 不動産の相続登記・名義変更が済んでいなければ専門家の助力を得てできるだけ早く相続登記を行うこと
- 「所有者不明土地法」が整備され、手続きを取ることで所有者が分からない土地を自治体等が利用しやすくなった
- 2023年頃には、相続登記が義務化される可能性が高い
本記事の内容は2021年2月11日時点のものですが、日本経済新聞の報道によれば政府は3月にも改正案を閣議決定し、国会で成立後、2023年度にも施行される方法で調整に入ったとのことです。
今後、相続登記と住所変更登記の義務化が進む方向です。義務化されるまでにできる対策を早めに行っていきましょう。